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花に叢雲 月に… 1 |
「まったく、サーヴァントが酔いつぶれるとは聞いてあきれる……」 そう言うと、ランサーは背負っていたギルガメッシュを丁寧…とはとても言えないような所作で寝台に放り込んだ。いつもなら「王の身体を無体に扱いおって!」とか「このうつけが! 王に対する礼儀も知らぬか!」等等騒ぎ立てそうなギルガメッシュであったが、さすがに静かだ。何しろ先ほどまで墓地近くの花の下で酔いつぶれていたのだから。 我ながら人の良さに呆れるぜ、などとひとりごちてギルガメッシュをここまで運んできたランサーだったが、その行為はあくまで善意。下僕の如く扱われる筋合いもないので、大雑把である。 当のランサーにしてみれば、ここまで手を貸してやったことですらおつりがくるくらいのことだ、と思わずにはいられない。 「さて、いい加減次の……うわわっ!!」 元々教会には定期報告に寄っただけのこと。用が済めばこの陰気な、そしてランサーにとっては災厄を呼び込む場所に長居するつもりなど更々無い。けれど、外に出ようとしたランサーは左手首をぐいと引き寄せられた。あまりに急のことで、受身を取る余裕も無かった。 「…っう………」 「あれくらいの酒で足腰が立たぬか……仕方のない奴だ」 さっきまで寝ていたはずのギルガメッシュにいきなり引っ張られたのだった。いや、事態はそれだけでは済まされない。 「……って、テメエ、まだ酔っ払ってんのかよ!!」 「失敬な! 我があの程度の酒で不覚を取るか!!」 寝台に引き込まれる程度ならともかく、押し倒される体勢になっていた。見事なまでに。思わず「この酔っ払い!」とランサーが言いたくなるのも無理からぬことだった。 「言っとくけどな、テメエがバカ丁寧に魔力補給したせいで、オレは無駄に元気なんだよ!」 押し倒される謂れはない、とばかりに抵抗するランサー。 あまりに魔力が充分だと気力体力も充実してくる。ツネヒゴロ、魔力を節制することばかりに気をとられて思いっきり暴れることもままならなかったランサーは、補給後その足で赤い弓兵に戦いを仕掛けに―――もとい、喧嘩を吹っ掛けに―――行ったのだった。 ひとしきり暴れて「嗚呼〜魔力があるっていいな〜」などと歌うようにして言って冷静な弓兵を後じらせ、「またちょくちょく手合わせに来るからな〜」と言っては主である少女に「来なくていいわよっ! っていうか来るなー!」とガンドを撃たれたのだった。 「ほう……ならば労って抱いてやる必要は無いな。存分に愉しませてもらおう」 そんなランサーに対しても、英雄王はいつもの態度を変えようとしない。いや、ランサーを組み伏せる手を放すどころか、むしろ楽しげに『天の鎖』を呼び出してその拘束を一段と激しくする。 「ケッ! ただの一度でも労って抱いたことがあったかよ! 鎖で繋いでいいようにしやがったくせに!」 「そうされるのも好きだろう? 貴様は虐げられることに快感を感じる性質(たち)のようだからな」 「違うっ!! 断じて、オレはそんな変態じゃねえ!」 「フ……隠さずともよいぞ狗。我にとってはその程度のことなど瑣末なものだ。王の身体を悦ばせることができるのだ……むしろ、その身体を誇りに思うがよい」 「だーかーらー! テメエ、全然オレの話聞いてないだろうっっ!!」 そうこうしているうちにランサーの四肢は『天の鎖』によって拘束され、身動きひとつとれない身体になってしまっていた。 「さて……自ら肌を晒すか、それとも破かれる方が好みか……?」 好きな方を選ばせてやろう、言外に告げられたランサーであったが、そのどちらもお断りであった。実際、魔力が充実している今、いくら護りの衣を裂かれようと瞬く間にそれらは復元する。そうなれば、ランサーが自ら魔力を遮断して衣を消すこと意外その肌を晒すことにはなりかねない。そのことはギルガメッシュとて承知しているはずだった。なのに、この男の傲慢な物言いはどうだ―――いつものこととはいえ、ランサーの脳裏にはそのことが浮かんで離れなかった。 |